メガカイロスは強い

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シロガネ山コンセプトマッチ 桂馬 vs しゃわについて語らせてほしい -なぜポケットモンスター第三世代の最終回と呼ばれるのか-

この記事は「Pokémon Past Generation Advent Calendar 2023」25日目の記事です。

adventar.org

今年のアドベントカレンダーもお疲れさまでした。
参加者各位と主催の夜綱さんに改めて感謝。

以下敬称略

まえがき

時代の流れに沿い、
常に新しいものへと、人々の目は向かう。

いつの時代も、最も人気なのは最もプレイヤーが多いゲームだ。
いつの時代も、最もプレイヤーが多いのは最も新しいゲームだ。
だから、最も人気なのは最も新しいゲームだ。

過去作勢からすれば悲しいけれど、これはまぎれもない事実だ。

けれども。
心を動かす戦い。
情熱のぶつかり合い。
そこに新作・旧作の区別はない。

この記事で語る戦いは、どれもポケモン過去作界隈という狭いコミュニティ内でひっそりと行われたものだ。
最新世代を生きる多くの読者にとっては、盛り上がりに欠けるものかもしれない。

だからこそ、残さなければいけない。
未来へと語り継がれるべき、情熱の輝きが。
きっと読者の心にも伝わると信じて。

そう思って、キーボードを叩いている。

ポケットモンスター第二世代の最終回、柚樹 vs poe

時は2019年11月4日。

ポケモン金銀20周年記念オフ「シロガネリーグ」が開催された。
VCを用いた、ポケモン金銀の対戦オフ会である。

その決勝戦である柚樹 vs poeは、プレイヤーやオフ会スタッフから「金銀対戦の最終回」と評され、「これ以上の対戦はないだろうから、もうオフ会を開かなくてもいいのでは?」とさえ言われた伝説の試合であった。

なぜそこまで言われるのか?

おそらくポケモン史で最初にして最後の『エクストラウィン』が成立した試合だからであろう。

『複数催眠禁止』ルールをご存知だろうか。

  • かつての公式大会のルール「ニンテンドウカップ」を再現するため
  • 今よりもバランス調整が荒削りな強すぎる状態異常「ねむり」に制限を掛けたいから

という理由で、シロガネリーグ含む金銀対戦オフでは、『相手のポケモンを同時に2匹以上ねむり状態にしてはいけない』いわゆる『複数催眠禁止』ルールが設けられている。

柚樹はこのルールを巧みに利用した。

「くろいまなざし」ブラッキーでナッシーをロックし、「ねむりごな」以外の技のPPをすべて0にし、強制的に複数催眠を行わせれば、勝てる。

誰も考えたことのなかった、あるいは、思いついてもやろうとしなかった前代未聞の戦法を、決勝のスクリーン上で敢行したのだ。

筆者はオフ会会場で試合を観ていたので、当時のことをよく覚えている。

ずっとスクリーンに映り続けるブラッキー対ナッシーの変わらない対面。
ブラッキーもナッシーも決定力がないまま盤面が膠着してしまい、お互いがお互いを倒せない塩展開。
頑張って間をつなぐ実況解説。

数十分後。

「あれ?これジャッジキルになるんじゃね…?」

柚樹の真意に気付いたギャラリーの誰かが、ふと漏らした一言で、会場はざわつき始める。

オフ史上初のエクストラウィン優勝という歴史的瞬間に立ち会えるかもしれない・・・。

poeは「やどりぎのタネ」+「めざめるパワー虫」急所での突破を狙うも、その思いは届かなかった。ブラッキーの「あまえる」「ねむる」に遅延され、「ねむりごな」以外のすべての技のPPを枯らされたナッシーは、反則行為となる複数催眠を強制されてしまう。
こうしてpoeは敗れ、柚樹が優勝した。

さながら、オシリスの天空竜を倒せなくなった遊戯が、マリク(人形)を無限ドローでハメてライブラリアウトで勝利したかのような。

衝撃的ながら鮮やかな決着を目にして。会場は、前例のない出来事に立ち会った感激の声と、誰もやったことのない未知の勝ち筋に気付いた柚樹を讃える声で沸いた。


柚樹 vs poeは間違いなく最高の名勝負であった。

だが、最高すぎた。
誰も柚樹 vs poeを超えられない問題が生まれたのだ。

シロガネリーグ以降のポケモン過去作界隈を振り返ってみる。

一番盛り上がっていたのは間違いなく三世代である。
コロシアム乱数の開拓が進んだことで、ライコウスイクンの個体調達が実用範囲になったことと、それに伴う環境の激変(通称:DLC)は記憶に新しい。
X(旧ツイッター)上ではケモコロシ(ポケモンコロシアムの略)の文字列を見ない日がない。
2023年にはXD乱数も進歩し、高個体値の「おにび」「あさのひざし」ファイヤーの入手が現実的になったようだ。
「入手不可能と思われていた組み合わせの個体値のサンダーが発見されたことで『めざめるパワー』と高A個体値での『ドリルくちばし』の両立が可能になった」のような、地味ながら大きな革命も起きている(ぜひAdvent Calendarの記事を読んで欲しい)。

note.com

toxxane-gym.storeinfo.jp

三世代の乱数調整開拓は、筆者のメインルールである4thGSにも影響を与えている。
特に「じばく」ミュウツーの乱数調整方法が確立されたり、「てだすけ」トゲキッスの入手難易度が下がったことで、少なからず環境に変化があった。
「てだすけ」ドサイドンも活躍が期待されている。

pokemon-suki.com

6世代は特にトリプルバトルが大人気だ。昔からの愛好家やYouTuberの熱心な活動等が功をなしたのか人口が増え、『現代トリプルバトル』として盛り上がっている。
2023年には3DSのオンラインサービス終了というショッキングなお知らせもあったが、負けずに頑張ってほしいところだ。

初代・2世代はYouTubeチャンネル『つうしんケーブルクラブ』が登録者1万人を達成し、現在進行形の人気コンテンツとして界隈を盛り上げている。

けれども。皆が、何かが足りない感覚を覚えていた。

柚樹 vs poeが良すぎたのだ。

どんな対戦を見ても、心に響かない。
柚樹 vs poeの感動の前には、全てが虚しく思えてしまう。

この記事で語るのは、そんな私達の閉塞感を打ち破り、心の穴を埋めた戦いである。

シロガネ山コンセプトマッチ 桂馬 vs しゃわ

2023年10月7日。
RedBull Gaming Sphereという最高の箱で行われた、シロガネ山コンセプトマッチ 桂馬 vs しゃわ。

柚樹 vs poeの感動は、「前代未聞の勝ち筋」という戦略の、ロジカルなおもしろさだった。
桂馬 vs しゃわには反対側の、エモーショナルなおもしろさがある。
だが、普段第三世代対戦を遊ばないであろう皆様には、何がそんなにエモーショナルなのか、完全には伝わっていないと感じている。

解説させてほしい。

桂馬 vs しゃわは「純愛」であると言い切る私に、そのエモさのすべてを。


記事には対戦内容のネタバレを含んでいる。

できれば、この記事を読む前に、動画を見てほしいと思っている。


桂馬 vs しゃわの何が良かったのか

「第三世代の主人公」ジュカインが良かった

本コンセプトマッチで最も印象に残るポケモンは、ジュカインであろう。

第三世代対戦に詳しくない方は、ジュカインというポケモンを見慣れていないかもしれない。

しかし、「ひかりのこな」を持たせた「リーフブレード」「いばる」「みがわり」「がむしゃら」が基本型とされるジュカインは、当時の環境では非常に強力であった。

すばやさ種族値120からの「みがわり」連打→「がむしゃら」による1:1交換は非常に止めにくく、「いばる」「ひかりのこな」による運ゲーや「リーフブレード」急所による上振れが恐ろしい。万が一「みがわり」が残りでもしたら1:2交換までありえる。
もちろん高種族値草タイプなので、上位キャラのスイクンレジロックラグラージハガネール等にも戦いやすい。
一応裏択で「やどりぎのタネ」型もありえる(「がむしゃら」と同時遺伝できない)ため、動きが読みにくい。

有志が公開しているキャラランク↓
toxxane-gym.storeinfo.jp
を見てもわかるように、最上位ではないものの、上位キャラとして認識されている。
※補足:キャラランク記事のタイトルになっている後期GBAは、一般的な第三世代対戦のこと。ルビー・サファイア発売時点での入手可能ポケモン・習得可能技で対戦するルールを前期GBAと呼ぶことがあり、その対比。

『みががむ』戦法は、「がむしゃら」という技自体がない第二世代以前、および「こだわりスカーフ」・まともな連続技と先制技・カババンギノオーのスリップダメージ・音技等で対処が容易になりすぎた第四世代以降では成立しない戦法である。
第三世代という特定の環境下だからこそ非常に効果的であり、ジュカインはこの世代のポケモンバトルの象徴であるといっていいだろう。

ジュカインの魅力は、単に強さだけにあるわけではない。

ルビー・サファイアで遊んだ多くのプレイヤーにとって、キモリの進化形であるジュカインは初めてのパートナーであり、多くの冒険を共にしてきた思い出深い存在だ。
ジュカインがスクリーン上で戦う姿は、ただのゲームのキャラクター以上の意味を持っているはずだ。

このコンセプトマッチのクライマックスは、ジュカインメタグロスの対面で幕を閉じる。

ジュカインは前述の通り、多くのプレイヤーが冒険を共にした、「第三世代の主人公」である。
一方のメタグロスホウエン地方のチャンピオン、ダイゴの切り札として記憶されており、「第三世代のラスボス」だ。

二匹の特別なポケモン同士の対決、そしてHP0のジュカイン対HPを1だけ残したメタグロスという決着は、ポケモンバトルの深い戦略性と、プレイヤーの心に残る物語的な要素を完璧に組み合わせたものであり、美しいと言わざるを得ないだろう。

「ルビーサファイアは桂馬の時代」桂馬の王者っぷりが良かった

ポケモンバトルの世界において、桂馬の名を知らないプレイヤーはいないだろう。

彼の生み出した天才的なアイデアの中で最も有名なのが『ノイコウ』である。「どくどく」「まもる」「みがわり」「プレッシャー」「たべのこし」といった技・特性・持ち物の相乗効果を活かしたライコウの型は、受けポケモンを崩す性能の高さと、めざパ厳選が不要で個体調達が容易な点から、一躍有名になった。

流行のアニメからゾルトラーク現象という概念を借りるならば、ノイコウはまさにその典型例だろう。
ゾルトラーク現象とは、元々革新的だった物や手法が時間の経過と共に一般化することを指す。
『残飯どくまもみが』なんてものは今ではあたりまえの戦法となったが、桂馬がこのような型をゼロから作り上げ、結果を出したことは、彼の天才ぶりを如実に示している。

ノイコウの名は、桂馬の別名義「ノイヤー」に由来する。
これは、フランス語の「Noirノワール、黒を意味する)」を彼が「ノイヤー」と誤読したことに端を発する身内ネタだ。
こうした小ネタが20年近く経過した今でも語り継がれていること自体が、ノイコウがポケモン界に残した影響力を物語っている。

コンセプトマッチにおいても、桂馬の伝説的な存在感が際立っていた。彼は王者であり、不遜なラスボスの役割を徹底的に演じた。
彼の自信に満ちたコメント「ルビーサファイアは桂馬の時代 歴史の教科書にも載っています 今日は皆でこれを確認しましょう」は、彼の自信と実力と実績の象徴であり、コンセプトマッチの主催:ポケモン委員会の見事な演出といえる。

桂馬の自信は構築にも反映されていた。
彼のチームは、

といった強力なポケモンが選ばれていた。
これらのポケモンは、彼の「高種族値ポケモンで攻める」「力でねじ伏せる」というスタイルと、「俺のほうが強い」という心意気を体現していた。
そして、しゃわの奇襲や奇策を主とするスタイルとの対比は、コンセプトマッチの「対決」「信念のぶつかりあい」という構図を明確にし、観る者に深い感動を与えた。

「桂馬は爪を使わない」 しゃわの20年来の読みが良かった

しゃわも、桂馬と同クラスの長いキャリアを持ったプレイヤーだ。

『昆布』という言葉が生まれたエピソードは、しゃわの経歴の長さを物語っている。

「まきびし」「ステルスロック」などの設置技と「ほえる」「ふきとばし」「あくび」等での交代誘導戦法を『昆布』と呼ぶ。
ニコニコ大百科などにも記述されていてポケ勢には定着しきっている『昆布』という言葉。もともとはこの戦法を開発した2ちゃんねるの荒らしコテハン多段嵐王のコンボということで多段コンボと呼ばれていたが、しゃわのタイプミスで多段昆布と呼ばれ、やがて短縮形の『昆布』が定着した。
20年以上前の出来事である。

さて、本人が「役割理論を広めた」と発言している通り、しゃわが本来得意とする戦い方は、どっしりと腰を据えて戦うような、受けループあるいはサイクルパーティである。

彼の構築記事をいくつか見ていただきたい。

komei48.hatenadiary.org

一目でわかるガチガチのサイクルだ。ねむカゴレジアイス、ねむる再生両立ミロカロス、残飯痛み分けマタドガス、ねむラムメタグロスなど、とにかく崩されないことを重視した構成が見て取れる。

komei48.hatenadiary.org

レアコイルグライガーの並びはタイプ相性補完に優れていることで有名ではあるが、どちらのポケモン種族値は高くないため扱いが難しい。こんなパーティを好き好んで使うのはよっぽどの受け中毒者であろう。

事前PVでもポケモン委員会が「しゃわさんの方はもう本当にガチガチに受けループであることが多くて」「受けループをどうやって崩していくかっていう所が見どころになると思います」と語っている。
ギャラリーの誰もが、しゃわは受けループあるいはサイクル系の構築を持ち込むと考えていた。

しかし、コンセプトマッチでの彼の選択は予想外だった。カビゴンハピナス、サンダー、ジュカイン、ゲンガー、スイクンという構築は、彼の得意とする役割理論、サイクルスタイルとは異なるものだった。

・・・ジュカイン?!
ジュカインの起用は、彼の戦略の転換を象徴していた。ジュカインは1:1の交換を強制する戦法に適しており、サイクルを重視するしゃわの本来のスタイルとは異なる。

非常に失礼な発言かもしれないが、実はしゃわが持ち込んだ構築はそこまで強くはない。少なくともオフで全戦全勝を目指すようなパーティではない。
というのも、ジュカインは「せんせいのツメ」に非常に弱いという弱点があるためだ。
第三世代対戦はそれ以降の世代と比較して「みがわり」系の戦法の対処手段が非常に限られていることは前述の通りだ。みががむ・やどみが・いばみが・みがきし・みがじた・みがカム・みがヤタ・みがチイ・・・等いろいろあるが、どれも要注意の戦法だ。
だからこそほとんどのパーティには「せんせいのツメ」による「みがわり」連打脱出プランが採用される。
強すぎてメタられまくっているため、逆に勝つのは難しいのだ。

だが、しゃわは桂馬との長年の、20年来の対戦経験から知っていた。「桂馬は爪を使わない」のだ。
桂馬は確率頼りの戦略が嫌いであり、「せんせいのツメ」のような持ち物は決して使用しなかった。
しゃわは、桂馬の確率依存の戦略を嫌う傾向を信用・信頼し、その弱点を突くポケモンとしてジュカインを採用したのだ。

構築が「今日だけは勝つ」「本来の得意スタイルを捨ててでも」「お前だけは倒す」と語りかけてくるかのようなパーティ選択。

この一途な気持ちは、まさに純愛と呼ぶにふさわしい。

しゃわのパーティは単なる勝利を目指すものではなく、長年のライバルである桂馬に対する深い敬意と闘志、友情・愛情・根性の表れだ。ギャラリーにとっても、この戦略の背後にある物語は、ただのバトル以上の深い感動をもたらした。

ポケモンXDであること、BO3形式であることを活かしきった情報戦が良かった

桂馬 vs しゃわはBO3形式とポケモンXDの特性を駆使した情報戦が非常に魅力的だった。特に、第一戦では桂馬が圧倒的な強さを見せつけたが、しゃわはこの戦いを通じて多くの情報を収集していた。

ポケモンXDの対戦は「HPが見える」という特徴がある。エメラルドでの対戦は現行世代と同様にHPが見えないため、ポケモンXD最大の特徴といえる。これによって、サンダー・メタグロスヘラクロスのおおよその努力値配分が推測できている。

「ラムのみ」はメタグロスが持っていること、サンダーが「クラボのみ」ではないこと、努力値配分的にサンダーは「せんせいのツメ」でもなさそうだということ。
ヘラクロスが「こだわりハチマキ」「めざめるパワー霊」型であること。すなわち「みがわり」や「きあいパンチ」でカビゴンの「カウンター」を避けられる可能性が低いこと。等々・・・。

二戦目では、しゃわはこれらの収集した情報を基に戦略を立て、「カウンター」「じばく」カビゴンを用いて1:2の交換を行い流れを掴んだ。
(「じばく」「カウンター」カビゴンという、役割放棄も甚だしい型選択からも、本来のサイクル重視のスタイルを捨てて桂馬を倒すために構築を用意したしゃわの意思を感じられる)

一方の桂馬は、しゃわに情報面で遅れを取り、それが試合結果に影響を与えた可能性が高い。
特に、ジュカインの「みがわり」がメタグロスの「じしん」に耐えるかどうかの確認や、ジュカインの持ち物が「ひかりのこな」であるかの確認など、桂馬が情報を収集する機会もあったが、彼はそれを選択しなかった。
これは、桂馬の自信の表れであり、また、姑息な情報戦に付き合わない彼の男気を示しているとも言える・・・かもしれない。

このように、両者の間で繰り広げられた情報戦は、ポケモンXD対戦の深い戦略性とロジカルな面白さを見事に示していた。

「リスクでもプレイでもない。ただの運だけのゲーム」が良かった

三戦目。

しゃわは「こだわりハチマキ」サンダーでの奇襲を仕掛けるが、桂馬のカビゴンの「のしかかり」で不運にも麻痺を引いてしまう。

ここからは逆境の中、しゃわの緻密な戦略が光った。

カビゴンカビゴンの場面。しゃわ側は「じばく」や「カウンター」を選んでもよかったシーンはあったが、麻痺を狙い最大回数まで「のしかかり」の試行回数を増やしていく。が、実らず。仕方なく「じばく」で1:1交換をする。

「のしかかり」で麻痺らない・・・
ならば次のプランに移行するまで。

ジュカインの「いばる」でなんとか「みがわり」展開に持ち込む。
思いが通じたのか、桂馬のサンダーは自傷し、しゃわのサンダーの「10まんボルト」2発圏内まで削れる。

勝ち筋が、見えた。

そしてメタグロスジュカインとの対面になる。

しゃわは既に得た「ラムのみ」の情報を生かし「いばる」を押さなかった。
桂馬は二戦目にジュカインの「みがわり」のダメージ確認を怠っており「じしん」を押してしまう。ジュカインの「みがわり」が持ちこたえる。

しゃわが盛り返していく。

もう、ここまで来たら、リスクでもプレイでもない。ただの運だけのゲームだ。
ただし、その運だけのゲームに参加する資格があるのは、適切なプレイをして、リスクを背負ったプレイヤーだけだ。

DMGP2nd 準決勝:尖迅 vs. トップライフ | デュエル・マスターズより引用

ここからの展開は、まさに「ただの運だけのゲーム」。ジュカインの「みがわり」とメタグロスの「コメットパンチ」の応酬。
「ひかりのこな」ジュカインに「コメットパンチ」が当たるか外れるか。当たったとして、追加効果の攻撃上昇を引けるか・・・。
スクリーンに映る二人の表情。40近い両レジェンドプレイヤーは、童心に帰ったかのようにこの運ゲーを楽しんでいた。

「勝っても負けてもお祭り騒ぎ バトルしようぜポケモンバトル」アニメポケットモンスターのOP「ライバル!」から引用された、しゃわの試合前の一言である。

運に委ねられたこの瞬間、これこそ真のポケモンバトルの醍醐味であり、「勝っても負けてもお祭り騒ぎ」ではないだろうか。

「運だけのゲーム」に、最後まで「適切なプレイ」で喰らい付いたしゃわ。そして「ルビーサファイアは桂馬の時代」

桂馬は強かった。運だけのゲームをも制した彼のメタグロスの「コメットパンチ」は一度も外れず、しゃわのジュカインはHPを1残すのみとなった。

もう運だけのゲームに殉じて「ひかりのこな」で避ける以外にはないのか?

違う。まだ「適切なプレイ」の余地はあったのだ。

このターンだけはメタグロスは命中率の高い「じしん」を撃ってくる。

そう確信したしゃわはジュカインをサンダーに交換。
予想通りメタグロスは「じしん」を撃っており見事に無償降臨に成功させる。
麻痺によって機能不全に陥っていたサンダーだが、まだメタグロスと殴り合える体力はある。
ここでメタグロスに「だいばくはつ」を押させて、桂馬サンダー対しゃわジュカインの対面になれば、まだ「いばる」の運次第で勝てる。

長考の末、桂馬はメタグロス→サンダーに下げる。

「いばる」の自傷で「10まんボルト」2発圏内に入っていた桂馬のサンダーだが、ここで隠し持っていた「オボンのみ」が発動。「10まんボルト」をもう一度耐える体力まで回復する。

HPを1/4も回復する現在と違い、当時の「オボンのみ」はHPを固定値30しか回復しない、強力とは言いがたいアイテムだ。

桂馬はこの微妙なアイテムを最適・最高のタイミングで発動させた。
桂馬もしゃわの「適切なプレイ」に「適切なプレイ」で答えてみせたのだ。

最終的には「ジュカインが『ひかりのこな』でメタグロスの『じしん』を避けるか否か」の運だけのゲームとなってしまったが
「その運だけのゲームに参加する資格があるのは、適切なプレイをして、リスクを背負ったプレイヤーだけ」なのだ。

最後は、山札の上をめくるだけの運のゲームだった。

だが、そのランダムな山札の上がめくられるのを誰もが待ち、興奮できたのは、このふたりがこの瞬間に戦っていたゲームだったからに他ならない。

DMGP2nd 準決勝:尖迅 vs. トップライフ | デュエル・マスターズより引用

あとがき

桂馬のコメント「ルビーサファイアは桂馬の時代 歴史の教科書にも載っています 今日は皆でこれを確認しましょう」は、見事な構築とプレイングと運で証明された。

しゃわもまた、桂馬ひとりを倒すための構築を組み上げ、適切なプレイを見せ、最後まで戦いに喰らい付いたことが印象的だった。

この両者の対決は、ポケモンバトルの駆け引きの面白さのすべてが詰まっており、ポケットモンスター第三世代の最終回と呼ぶに相応しい戦いとなった。

そして最終盤面、しゃわが桂馬を倒すために用意したジュカインと、「適切なプレイ」に基づいた「運だけのゲーム」に、「オボンのみ」で応える桂馬。
この心と心のぶつかりあいを、「純愛」と呼ばずに何と呼ぶのだろうか?


最後に。

桂馬 vs しゃわを企画したシロガネ山は、来年(2024年)の1/6(土)にもイベントを開催するようだ。

今回は4つのコンセプトマッチが組まれている。
8名の選手各位、およびスタッフの皆様を応援すると同時に、再びしゃわ vs 桂馬並またはそれ以上の素晴らしい試合を期待したい。


スペシャルサンクス

1192様(桂馬 vs しゃわの解説を務めていた1192さんには、記事のチェックをお願いしました。ありがとうございました。)